ゴールデン街の君
平日でも週末でも、だいたい君がそこに居ることを、何故かわたしは知っている。
君は乗降客数世界1のその駅を降りて、
怪しいネオンの中に吸い込まれていくの。
東洋一の歌舞伎町を抜けて、向かう先は新宿ゴールデン街。
君がいつも居るその店は、街の一角にあるビルの3階。
カウンター席しかない小さな店の中には、エログロな雑誌やサブカル本、UKロックバンドのレコードにライブDVDがたくさん。
そんな店に集まる人たちは曲者だらけ。
そもそもマスターが曲者だもの。いつだって革ジャンはハズせない。酒とタバコと音楽があれば何もいらない、そう言わんばかりの空気を、君はとても気に入っている。
君のタバコはセブンスター。
「NANAを読んだ影響」って言ってたけど、ボンテージは履いたことないんだよね。
ビールばかり飲んで何で太らないのかな。それは今でも不思議に思ってるよ。
君と初めて会ったのも新宿だった。
安い居酒屋の安いビールで出来上がって、2軒目に連れて行ってくれた店がゴールデン街のそのお店。
常連客である君は、きっといつもと変わらない飲み方をしていたんだろう。
わたしはわたしの知らない君の世界に足を踏み入れて、少しだけ気分が高揚していたんだ。
Tシャツとデニムにサンダルで、君と飲み歩いた新宿ゴールデン街は、今も変わらない佇まいなんだろうか。
真冬のコートで重くなる足取りで、きっと扉を開けたら君が居るその店に、わたしは随分とご無沙汰している。
もう随分と、君の声を聞いていないけれど、君は今もその店に居ると思うんだ。
マイノリティーが好きな自分を好きな君は、孤独をとても愛しているけれど、常に孤独で居られる人でもなかった。
だから居場所を見つけたら、きっとそこから動かない。
君の居場所になれるその店を、わたしはとても好きだったし、でもきっと、もう扉を開けることはないと思うんだ。